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所かわれば、仔豚の頭と仔牛の頭の話
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所かわれば、仔豚の頭と仔牛の頭の話

フランスでも「味覚の秋」と言う表現をする。秋にはうまい物が多く、また、全ての食べ物がうまくなるらしい。ところで、うまい物に対する嗜好は洋の東西で かなり違うもので、ふだん良く知っていたと思えるフランス人の味覚価値と食生活の習慣は、日本人とは当然のことながら、かなり違う。

私がエールフランス経営の「ホテル・メリディアン・パリ」の副料理長であった頃、ロワール河のほとりツール市の支店に三週間出張を命ぜられた。 もちろん家族同伴。ここがフランスらしいところ。こじんまりしたホテルでの仕事も悪くはない。三週間ぐらいの出張は、うまくころがり込んできたミニ・ヴァカンスみたいなものと、 一人でニッコリ。パリから230キロのツール市は、中世の塔が街のあちこちに残っているロワール河沿いの古い街。郊外にあるホテルは快適そのもの。 絵にかかれたように美しい庭園。仕事の合い間の城巡り、ワインの酒蔵巡り、レストラン、ビストロ、キャフェ巡りで、結構いい思いをした。

休日の前日私の仕事が早く終わることを知っていたフロントで働いているジルベールが、今夕家に来ないかと家族共々誘ってくれた。七時の約束。 ちょっとフンパツしたお土産のワインを手に、彼の家に着いた。広いサロン、美しい家具、家の中を奥さんが案内してくれた。 どこのフランス人の家庭もそうだが、汚れ一つない台所。居間に戻ると、よく冷えたシャンパンが出された。小さな泡が立ちのぼるフルート・グラス。 この時間である。食前酒にしては悪くない。いや最高だ。期待もふくらむ。話がはずんでいる最中、マダムが「ムッシュー・サカイ、今晩はどこで食事をするのか」と聞く。 「エッ、だってお食事の招待だったんでしょう」と言いたくなるが、ぐっと押さえる。シャンパンを飲んでいるので頭のめぐりは早い。

「いや、今晩は駅前のレストランに家族と寄ってみようかと話していたんですが」しどろもどろ。食事に招待されたのではないことを理解し、 「ところで、あなた達はどうするの」と聞いてみた。夕食にはだいたいショコラ(ココア)とビスッケトにチーズだと言う返事。 朝はカフェ・オ・レに残り物にパン「バケット」にバターをつけただけのタルティンヌ。 平日の昼はいつもしっかり食べる!休みの日レストランに行く時は、昼を軽くするという。 考えてみたら、ホテルの従業員食堂の夜の利用はかなり少ない。フランス料理というと、 フルコースにナイフ、フォークがずらっと並んでいるイメージがあるが、実際はフランス人の日常の食事は質素である。 日本ではビタミン、カルシュウム、何々が足りない、あれ食べろ、これも食べろと言われて、今や飽食の時代。朝、昼、晩、たっぷり食べ、尚且つ、夜食を取る人もいる。

仕事場(調理場)がかわると勝手が違うが、仕事は順調。氷細工や、バター細工なども調理場のスッタフに教えてあげ、私の評判もまあまあ。

ある日、仕事が終わり、帰り支度をしていると、客室やフロントやレストランで働いている女性がドヤドヤと調理場に入ってきた。そして、 紙片を、ここの料理長が持っているパンバスッケトの中にほうりこむ、希望者全員の紙が集まるとおもむろに3フラン、3フラン50と読み上げた。訳をたずねると、 今夕のパーティに出された仔豚の丸焼きの頭が残っている。これの入札(?)だと言う。あまりりっぱな頭で、捨てるには惜しいので、希望者に分けると言う。 お金は貯めておき、後日皆で使うらしい。
当たったのは、3フラン50サンチームの値をつけたブロンドの女性。彼女は冷蔵庫から出された仔豚の頭を自分でくるくると紙に包み、豊かな胸に抱きしめて 「ボンソワール・トッス(それでは皆さん)なんて皆に声をかけ、ニコニコしながら帰って行った。横では、若いコックが、「俺も仔豚の頭になりたい」なんてぶつぶつ言っていた。

ここで私は日本での仔牛の頭のエピソードを思い出した。私が若い頃働いていたホテルの同僚が、冷蔵庫から出してきた仔牛の頭をサーヴィス台の上にのせておいたところ、 それを見たウェイトレスが本当に腰を抜かしてしまい立ち上がれなかったことを。そしてキャーッと言う悲鳴も。国が違えばこんなに違う。なんと言う違いだろうか…….。

当エッセイは日清社の「フーディアム誌」に連載された「酒井一之の〈おしゃべり ア・ラ・カルト〉」を転記したものです。よって版権は日清社が保有するものです。








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